【エアコミケ・特別寄稿】異例ずくめとなった「紅蓮華」のヒットに迫る

 今や大人気作品となった「鬼滅の刃」アニメ版主題歌として使用されていた楽曲と言えばLiSAの「紅蓮華」だが、リリース1周年(53週目)となった今週のダウンロードチャートで1年前同様週間1位となり、アニメ終了から半年以上経っているにも関わらず異例のロングヒットとなっている。これだけのヒットになっている要因とは何か? 現時点でのチャートアクションがまとめられていますので、こちらも参考にしていただければと思います。

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 まずこの曲はダウンロードでアニメ第三話(MX、BS11基準)放送後の4月22日にリリース。TVサイズとフルコーラスでは歌詞が一部異なる、異例の対応も話題となり初登場から2週連続でダウンロードチャート1位を獲得。日本レコード協会・有料音楽配信認定において10万ダウンロード以上となるゴールド認定を5月時点(約1ヶ月)で獲得した。

 しかし「紅蓮華」は、ダウンロード販売開始時点ではCDも発売しておらず、ストリーミング配信も行っていなかった。CD発売はダウンロード販売から2ヶ月以上先の7月3日。これもまた異例の対応と言える。

 最近ではテレビドラマ同様、アニメも1クール(3ヶ月)で終わる作品が多い中、「鬼滅の刃」は2クール(6ヶ月)連続で放送され、2クール目(アニメによっては間隔を空けて放送される場合もある)では主題歌を変えてくる場合がほとんどである。特にLiSAが所属するソニーミュージック系では過去に1クールのアニメでも途中でエンディングテーマを変えた例もあり、悪く言えばアニメ主題歌を商売道具として使い捨てする傾向もあったが、「鬼滅の刃」では主題歌、エンディングテーマが2クール同じ曲が使用された。それもあり、2クール目に突入する7月頭にCDをリリースする形となった。もし7月から主題歌を変えるのであればもちろん取れない販売戦略であり、もし主題歌を変えていたのであれば、今後のヒットに繋がらなかった可能性もあっただろう。

 そしてシングルCDがリリースされ、初動売上は2.4万枚。LiSAの代表曲のひとつである「Catch the Moment」(2017年)は初動2.7万枚だったが、ダウンロードリリースから2ヶ月以上経過してのリリースとなったため、既に楽曲を手に入れていた人を考慮すれば上出来と言える。

 その後はダウンロードでの売上が中心となり、8月時点で25万ダウンロード以上となるプラチナ認定を獲得。CD売上は落ち着いたものの1ヶ月以上経過した時点で下げ止まる傾向を見せ、すんなり100位圏外には消えなかった。

 ただこの時点ではストリーミングに関しては一部のみ解禁されており、週間300位以内にすら入れない週もあった。またCD稼働数を示すルックアップでも、特出する程高い順位を記録しておらずくすぶっている感があったものの、アニメが終盤を迎える9月に入り徐々にペースアップ。更にアニメ終了後の10月21日に「紅蓮華」を含むLiSAの楽曲全てが大手ストリーミングサービスで解禁されると、ストリーミングでも上位進出を果たし、その後は紅白出場をはじめとする年末の大型音楽番組への出演で一気に各指標が伸びヒットチャート上位に定着する事となった。もちろん、アニメ放送を機に「鬼滅の刃」の人気が更に高まった事も重要な要素と言えるだろう。

 

 ちなみに週間ダウンロードチャートで週間20位圏外に落ちたのは1度だけ(2020年5月4日付時点)であり、今年3月に75万ダウンロード以上となるトリプル・プラチナ認定を得るに至っている(ダブル・プラチナ認定は昨年12月)。

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 参考までに「紅蓮華」以外で昨年から今年3月までにかけて、リリース1年以内にトリプル・プラチナ認定を記録した楽曲は米津玄師「馬と鹿」と、Official髭男dism「Pretender」の2曲だけとなる(ミリオン以上は該当無し)。言うまでもなく「馬と鹿」も「Pretender」も昨年を代表する大ヒット曲であり、それらと肩を並べるだけの異例の実績を残したと言えるだろう。またCD売上も4月に入り10万枚を突破し、初動売上の4倍以上の累計売上で自己最高売上を更新。更に現在は集計が取り止めとなっているものの、カラオケチャートでも中断前の時点で週間2位に付けていた。

 

  特にストリーミングやカラオケでの人気定着は、ヒットソングとしての要素を十分に得ている証拠とも言えるだけに、もはやアニメ「鬼滅の刃」主題歌ではなく、いちヒット曲として認められたとまで言っていいだろう。ただもしアニメで第2クールに主題歌を変えていたら、もしストリーミングの全面解禁が無かったら、配信リリース1年を経過してもなお、ここまでチャート上位に居続けただろうか。ソニーミュージック系のアニソンはストリーミングでの配信に消極的だったものの、このタイミングでのストリーミング全面解禁は息切れを回避し、今年に入っての継続的な人気に繋がらなかった可能性があるとも言えるだけに、ここでの異例の対応もまた、これだけのロングヒットに繋がっていると言えるだろう。

 

 異例ずくめとなったこの「紅蓮華」の大ヒット。しかしどこかの歯車が噛み合わなければここまでの人気にはならなかったようにも思える。もちろん作品人気に依存するところもあるが、アニソン中心に活動しているLiSAがこれだけのビッグヒットを作り出せたのは、他の音楽ジャンルでもヒットに向けたヒントになるのではないだろうか。

 

 そして、今年10月公開予定の劇場版「鬼滅の刃 無限列車篇」ではどのような主題歌が登場するのか。それも心待ちにしたいところだろう。