2020年は新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックにより、世界中が影響を受けた年として人類史が続く限り語り継がれるでしょう。もちろん日本の音楽業界も例外では無く、ライブなどのイベントの中止により深刻なダメージを受けてしまいました。その中には、CDの特典として行われるイベントも含まれており、特典によりCDを売っていた歌手・グループにとってはまさに死活問題と言えます。
しかし、全てがそうではないが、特典頼みにより構成されているCD売上を扱っているランキングは果たしてヒットチャートと言えるのか。その点をおざなりにして慣例的にそれをヒット曲の基準として伝え続けていいのか。そして、たった1週間の1位がヒット曲と言えるのか。その点を置き去りにした結果、売れている曲とヒット曲との乖離が鮮明になったと言えるのが2020年の日本の音楽業界ではないだろうか。
今月4日に発表されたBillboard Japan年間ランキング2020のHot 100ではその傾向がくっきりと出ている。このコロナ禍において日本の音楽業界で急速に進んだのがストリーミング(サブスク)の普及である。
1位は明日行われるNHK紅白歌合戦への出場が追加発表されたYOASOBIの「夜に駆ける」。年間ランキングにおいて初めてCDシングルのリードナンバー以外の(CD関連のポイントがまったく無い)曲が年間1位となり、年間上位でCD売上が高い曲は15位の「D.D.」(CD売上年間3位)まで見ないと出てこない。
「D.D.」より上位の14曲(「感電」以上)でCD売上年間100位以内に入っている曲は3位の「紅蓮華」(CD売上40位)、4位の「I LOVE…」(同58位)、9位の「炎」(同34位)の3曲のみ。それ以外の11曲中7曲はCDシングル化されていない曲となる。
そして「感電」以上の上位14曲全てに該当するのは、ストリーミングの年間ランキングが20位以内(最低でも「炎」の18位、ただしたった8週間でここまで来ている)。ダウンロードも「イエスタデイ」の25位を除けば14曲中13曲が年間20位以内となっている。
これをHot 100年間ランキングの100位以内に広げ、その100曲がCD売上、ダウンロード売上、ストリーミング回数の年間100位以内にどれだけランクインしているかを2017年度からの比較でまとめてみるとこのような結果となった。
この4年間でこの3要素についてはポイント換算率の大きな変更は行われていないため(あえて言えば20年に入り、ストリーミングのポイントが有料アカウント・無料ユーザーでの区分が出来たぐらい)、データの連動性について問題は無いと見られる。これを見ても分かる通り、CD売上で年間100位以内に入った曲が今年は23曲まで減ってしまっている一方、ストリーミング年間100位以内が今年は79曲にまで激増。昨年までの徐々に増えつつあるところから、今年は一気に勢力を伸ばす結果となっている。
このブログでも以前取り上げたLINE MUSIC高橋明彦COOに対するインタビュー記事(今年2月の記事)において
「ぶっちゃけて言ってしまえば「成長が一定」なんです。ストリーミング・ミュージック、サブスクリプションサービスには力があり、諸外国で見られるように、もっとぐぐぐっと、一気に伸びていく力があるのに、そうなっていない」
と語っていましたが、その「一気に伸びる力」が今年になって表れました。
またこの記事には
「LINE MUSICは元々、「LINEというソーシャルメディアを使い、友人の間で音楽をシェアしあう」姿を想像していました。しかし、この機能は想像していたようには使われず、思ったほどの効果を得られませんでした」
とあったものの、コロナ禍の時期から日本でもTikTokによるヒット曲が誕生し、その後押しもあり、年間ランキングの勢力図を一気に入れ替える結果となり、時代はコロナ前とコロナ後で大きく動いたと言えるでしょう。
遡って年間ランキングの話に戻り、「感電」以上の14曲を対象に週間チャートでの結果を見てみると、Hot 100で2020年度に週間1位を獲得していない曲は「紅蓮華」、「白日」、「宿命」、「マリーゴールド」、「裸の心」、「イエスタデイ」、「Make you happy」、「まちがいさがし」、「感電」の9曲(「マリーゴールド」は昨年週間1位有り)。「D.D.」も「Imitation Rain」に阻まれ週間1位を逃しているが、年間では上回る結果となっている。
前回の「エアコミケ・特別寄稿」でも伝えているが、「たった1週間の1位」だけでヒット曲として扱ってしまう、1位だけを扱ってしまう、1位以外に価値は無いと言う概念そのものが否定されなくてはいけない。Billboard Japan Hot 100においても週間チャートにおいてはCD売上の影響力が強くオリコンと変わらない印象があるが、その1位を取った曲のそれ以降がどうなっているのか。そこまで見ないとヒット曲とは言いづらいだろう。
今回も2020年度のCD売上週間チャート1位、および週間10万枚以上の売上を記録した曲のHot 100での当週、および翌週の順位をまとめたので、それを参考にしてもらいたい。
※ 翌週黒塗りは無料ユーザーが確認出来ない部分のため非公表。Week 3のMAG!C☆PRINCE「Try Again」は全要素が100位圏外のため、一般向け有料アカウントでも確認不可
当たり前だが、本当にヒット曲であれば翌週急落する事はない。極端な話、1位だけを取って翌週急落している曲は、ただの自己満足であり「何も得られていない」だろう。もし本当に「たった1週間のオリコン1位、ビルボード1位」に価値と意味があるのなら、発表以降その曲を気にする人がいてもいいはずだ。ただ現実問題、1位になっても翌週50位以下、100位以下になる曲がこれだけあるのだから、もはやCD売上だけで得た1位には意味も価値も無いと言える。ジャニーズのファンが「連続1位を継続させよう」と呼び掛けているのもただの自己満足であり、外野には響かずヒットには繋がっていない。今年の年間ランキングでは関ジャニ∞、ジャニーズWEST、Hey!Say!JUMP等がジャニーズでは100位以内に進出出来なかった(上記3組はいずれもCD売上では30位以内)。しかしCD売上でこれ以下の曲やシングルCDとして売っていない曲、また週間チャートでは10位以内はおろか30位以内にすら入っていない曲が100位以内に進出している現実はしっかりと見るべきだろう。
となると、もはやCD売上を中心に語る事が「時代遅れ」ではないだろうか。オリコンを伝える事自体が、世の中のミスリードに繋がっているとも言えてしまうだろう。オリコンも音楽配信(ダウンロード、ストリーミング)のランキングと、それらをCD売上と合算したランキングも発表しているが、CD売上単体のランキングに比べ扱いがあまりにも小さく、合算ランキングもCD売上に偏重している点からもヒット曲を示しているとは到底言いづらい(そもそもシングルCD単位での集計と言う時点で論外)。オリコンはあくまでCD売上のランキングであり、その点は年間ランキングのページを見ても分かる。
オリコン年間ランキングの表記は「歌手別総売上、CD売上、ダウンロード売上、ストリーミング回数、合算ランキング」の順となっている。対してBillboard Japanの年間ランキング表記は「総合チャート、それに付随するチャート、ストリーミング回数、ダウンロード売上、CD売上」である。両者が何を重視しているか、これを見るだけでも明らかだろう。オリコンにとって合算ランキングは、CD売上から比べたらただのオマケ程度でしかないのかもしれない。
しかしながらこれまで日本のレコード売上から市場の動向を発表してきた長年の実績が、オリコンに対する一般的なイメージを定着させている。そこに利益率の高いCD売上を重視したい音楽業界の思惑、そして一般向けに販売されていた冊子(最終的には「オリ☆スタ」)では最終的に年間の6割以上で表紙を飾り、最近ではCD売上の集計方法にすら関与しているともされているジャニーズ事務所、更には電通と言ったところも、オリコンを後押ししているとも考えられる(電通はビデオ・リサーチとニールセンとの視聴率調査時代からの因縁も関係していそうだ)。
ただ21世紀に入り音楽ダウンロードが普及していた中、オリコンがCD売上の意味合いを維持し続け、音楽業界はCD売上の利益の代わりになる新たなビジネスモデルを構築出来ず、ヒット曲の基準すら固執した結果が、今現在の売れている曲とヒット曲との乖離に繋がっているのではないだろうか。これはオリコンの功罪であり、ただでさえダウンロード売上が特化している曲に対する評価が10年以上に渡り放置されていたものを、今度は更にストリーミングでさえCD売上より評価を下げるようであれば、オリコンが目指している「ヒットの可視化」の方向性が一般的な感覚からかけ離れていると言われかねない。オリコンが可視化しているヒットとは商業的なヒットであり、大衆的なヒットとは違うものになっている。1990年代まではこれが符号していたが、今となってはマネーゲームの勝者と敗者を示しているだけとなってしまっており、これではオリコンの存在そのものが否定されて然るべきだが、それを音楽業界とそれを後押しする勢力により食い止められているのが現状のようだ。
新型コロナウイルスによるパンデミックがいつまで続くかは想像しづらいが、これが解消されて以降も、以前のようなビジネスモデルが成立するとは思えない。本来ならCD売上がヒット曲の基準として成立していたのは2000年代(ゼロ年代)前半までと言えるが、日本はそれを2020年になっても引きずってしまっている。この後れを取り戻すには時間がかかるだろう。そして抗う勢力がその発展を更に遅らせるかもしれない。ただ、新たなチャンスの芽を潰すような真似はするべきではない。それを記してこそヒットチャートではないだろうか。