毎週のように伝えられている音楽チャートですが、集計対象となる業者の違いによりそれぞれ異なる数字が出されており、どれをどう見ていいのかが分からないと言った事もあるかと思います。そこで今回はストリーミング、ダウンロード、CD売上と分けてBillboard Japan、オリコン、日本レコード協会それぞれの違いを解説したいと思います。ここではストリーミングについてです。
2010年代に入り急速に発展してきたのが音楽のストリーミング配信です。サブスクリプションと呼ばれる月額制の音楽配信サービスが主だったところですが、YouTube等の動画配信サービスもストリーミングの一つとして含まれます。それらの複数業者の再生回数を基にした週間チャートが現在、Billboard Japanとオリコンで発表されており、月1回日本レコード協会からは規定回数に達した曲が認定を受けています。最近ではBillboard Japanとオリコンでは1億刻みで累計再生回数が達成されると記事になっており、新たなヒット曲の基準として、注目されています。
この3社にどのような違いがあるのか。それぞれ見て行きましょう。
・Billboard Japan
Billboard Japanがストリーミング回数をチャート要素として取り入れたのは2015年度下半期からとなる。ただこの時取り入れられたのは「プチリリ」の(歌詞表示)データベースに対するアクセス数によるもので、現在一般的に認知されている音楽ストリーミングサービスに対するものとは異なるものとなっていた(これについては2017年7月30日までとなり、現在は集計対象から外されている)。音楽ストリーミング配信業者からの再生回数を取り入れ始めたのは2017年度から。ここから徐々に拡充していき、現在は11社から提供を受けている。
オリコンと日本レコード協会との違いは、プレイリスト型のストリーミング配信業者であるdヒッツとauスマートパスプレミアムミュージック(2023年10月2日に「うたパス」から名称変更)が含まれている点である(auスマプレミュージックもオリコンの集計対象となった)。この2社は一般的なオンデマンド型の音楽ストリーミング配信業者とは異なり、1曲単位で選曲は出来ず、用意されたプレイリストからユーザーが選択して楽曲を聴く形となります。そのため、オンデマンド型と比べ月額は割安です。
ただし本家アメリカのBillboardと異なるのは、ストリーミング回数にMV再生数(ビデオストリーミング)が含まれていません。これについてBillboard Japanでは別途計上し、総合チャートであるHot 100に組み込まれています。またストリーミング回数、およびMV再生数はアルバム総合チャートであるHot Albumsには加えられていません。これもアメリカのアルバム総合チャートThe Billboard 200とは異なります。
Billboard Japanのストリーミングチャートはオンデマンド型とプレイリスト型、更に有料アカウントと無料ユーザーによる再生回数をそれぞれ分類し、ポイント化した上でのチャートとなります。そのため、再生回数の順位とポイントで出した順位が異なる場合もあります。なお金曜日に、YouTube Musicを除くオンデマンド型の集計対象となっている8社の水曜日までの中間トップ10が発表されています(祝休日は発表が取り止めになる場合がある)。
2022/04/20追記:2022年4月20日発表分のチャートより、一部ストリーミング業者の再生数に対し、市場シェアに応じた係数処理(減算)を行った上で集計されるようになった。これは市場シェアは高くないものの、全体の再生数に影響を及ぼしているAWAのラウンジ機能を利用したファンダムによる意図的な再生数の増大に対応したものとされている。なお「一部ストリーミング業者」とあるため、シェアの高い業者に対し通常より高い係数(上方修正)がかけられる訳では無いようだ。
【チャートに関するお知らせ】
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2022年4月20日
2022年4月20日発表チャート以降、総合チャートのストリーミング指標およびストリーミング・ソング・チャート“Streaming Songs”において、一部サービスの実再生回数に代わり、その市場シェアを鑑みた計算係数を採用することで、楽曲の総再生回数を算出しています。
なお2022年5月11日発表分のチャートより、一部サービスの施策によって、再生回数が市場全体の平均バランスから大きく乖離した楽曲に対し、個別に係数処理を行いHot 100のポイントに換算する方式となったが、これは再生数に影響する部分では無いのでここでは説明を割愛する。
・オリコン
オリコンがストリーミング回数のランキングを始めたのは2019年度から。こちらも拡充を重ね現在は9社から提供を受けている。
Billboard Japanと日本レコード協会との違いは、2020年9月14日よりアメリカのBillboard同様、MV再生回数(ビデオストリーミング)を組み込んでいる点となる。なおBillboard Japan同様、公式の映像のみ集計対象で、ユーザー生成コンテンツであるUGC(User Generated Content)は対象外となる(Billboard JapanではUGCの再生数によるチャートが別個存在する)。このため、今後ビデオストリーミング数がオーディオストリーミング数を上回るような楽曲が現れた場合は、Billboard Japanより早い段階で区切りとなる再生数を迎える可能性がありますが、back number「水平線」の例を見る限り、その曲が何らかの形で発売・配信の予定が未定の場合カウントされないようです。また、Billboard Japanではアルバム総合チャートにはストリーミングの要素が含まれていませんが、オリコンのアルバム合算ランキングにはストリーミングの要素が含めれています。
ただし再生数に関しては、広告モデル再生(無料ユーザー)は1/3、Amazon Prime Musicは1/2に割り引かれるため、純粋な再生数ではありません。また冒頭に書いた通り集計そのものが2019年度からとなっており、それ以前についてはフォローしていないため、2018年度以前にリリースされた曲についてはBillboard Japanと比べると集計が欠損している状態となります。また音楽ストリーミング配信業者最大手であるSpotifyが集計対象となっていません。現状ビデオストリーミングの有無と無料ユーザー、Prime Musicでの再生による割引がオリコンとBillboard Japanにおけるストリーミング回数の差となっていますが、オリコンの方が再生数は低い数字となっています。また他のランキングとは異なりデイリーのランキングはありません。
2022.04.25 update
オリコンが5月9日付週間ランキングよりSpotifyを集計対象に加える(集計期間は4月25日以降が対象)。
【オリコン】週間ストリーミングランキングにSpotifyが参加 5月9日付よりhttps://t.co/gDmPTZCsCs
— ORICON NEWS(オリコンニュース) (@oricon) 2022年4月25日
#オリコン #オリコン週間ストリーミングランキング #Spotify pic.twitter.com/B0GxyEX9or
日本レコード協会がストリーミング回数による認定を始めたのは2020年4月から。Billboard Japanでもオンデマンド型のストリーミング回数の集計を行っているGfK Japanからの提供により10社が集計対象となっている。なおBillboard Japan同様、対象となっているのはサブスクをはじめとするオーディオストリーミングの再生数であり、YouTube等のビデオストリーミングの再生数は含まれていない。
2022.02.24 update
2022年1月認定分よりAmazon Music Prime(Unlimitedは以前より集計対象)、YouTube Music(Premiumを含む)が集計対象に追加されました。
2023.02.22 update
2023年1月認定分よりauうたパスが集計対象に追加されました。
Billboard Japan、オリコンと比べると開始が遅いものの、2020年3月以前の記録についてもフォローしており、歴代と言う意味では両者を上回っている。ただし発表は月1回のため、基本的にはBillboard Japan、オリコンと比べ、区切りの達成については後追いでの認定となるだろう
認定は毎月月末(日付は固定されていない)。CD出荷数やダウンロード売上同様に規定の再生数を記録し、レコード会社からの申請を受け認定となる。認定基準は以下の通り。
- ゴールド(5000万再生以上)
- プラチナ(1億再生以上)
- ダブル・プラチナ(2億再生以上)
- トリプル・プラチナ(3億再生以上)
- ダイヤモンド(5億再生以上)
※シルバー(3000万再生以上)は2021年12月度認定をもって廃止、ダブル・プラチナ、トリプル・プラチナは2023年1月認定より追加。
なお諸外国のように、CD出荷数、ダウンロード売上とストリーミング回数を合算したゴールドディスク認定は日本では行われていません(オリコンの合算ランキングに近い形となる)。
最後に集計対象となるストリーミング配信業者をまとめてみました。なお、いずれも日本国内からの再生が有効となります(YouTubeで表示されている再生回数は全世界での再生数となるため、その全てが反映される訳では無い)。
・Billboard Japan、オリコン、日本レコード協会共通の集計対象(オリコンはビデオストリーミング回数を含む)
Amazon Music(Prime,Unlimited)、Apple Music、auスマートパスプレミアムミュージック、AWA、KKBOX、Spotify、TOWER RECORDS MUSIC、LINE MUSIC、Rakuten Music、YouTube Music(Premiumを含む)
2021/05/28追記:Billboard Japanは2021年5月24日よりAmazon MusicにおけるPrime Music(Amazon Prime会員特典)での再生数を加えると発表した(それ以前はAmazon Music Unlimitedのみ反映)。これについては上記オリコン合算ランキングではポイント換算が割り引かれており、Billboard Japanでも同様の措置が取られる可能性がある。
※ Billboard Japanにおいてビデオストリーミング回数はオーディオストリーミング回数と別計上されHot 100に取り入れられている。集計対象はYouTubeとGYAO!の2社(2023年3月31日でGYAO!はサービスを終了し、Billboard Japanへの集計は3月12日で終了している)。なお、YouTubeにおいて集計対象外となっているUGCの再生数については、Top User Generated Songsと言うチャートで扱われている。
・Billboard Japanのみ集計対象
dヒッツ
なお、共通の集計対象だったGoogle Play MusicはYouTube Musicに統合される形で2020年10月に、HMVmusic powered by KKBOXは2021年3月にサービスを終了。RecMusicとdミュージック月額コースが統合される形で10月1日にTOWER RECORDS MUSICに名称変更している(それぞれ統廃合した業者の再生数についても累計の再生数として含まれる)。
ここに来てBillboard Japanよりオリコン、日本レコード協会の記録達成のタイミングが早い事例が増えてきたので、以下を参考に。
・オリコンのアナウンスが一番早い場合
ビデオストリーミングの再生回数が多く、Billboard Japan集計のオーディオストリーミング回数を上回った場合。
・日本レコード協会のアナウンスが一番早い場合
Billboard Japanでは累計数から除外される週間順位(300位圏外)での累計再生数により節目となる再生数を記録した場合。
ご覧いただいた方々の参考になれば幸いです。