日本で音楽ストリーミングの再生数が信用されない不幸(続報あり

追記:

 この記事は当初4月20日発表の変更点について触れていましたが、その後5月11日に発表の変更点がこの記事の内容に近いため、内容を一部差し換えています。

 4月20日発表分の変更点については、主に国内シェアの低いAWAのラウンジ機能を利用しての能動的な再生数の水増し(ドーピング)行為に対し、再生数そのものに手を付け減算処理する仕様となっている。

 

 4月20日Billboard Japanからストリーミング再生数に関わる変更が成されたが、5月11日に更なる変更点が発表された。

 これは主にLINE MUSICやRakuten Musicで行われている、期間内での再生数に応じて特典が得られたり、その特典に応募出来る権利が与えられるキャンペーンで生じた再生数に対する抑制処置と見られている。これにより局地的に集中した再生数でその他のストリーミング業者での再生数と著しい差が生じ(実例として、ある業者では上位だが、他の業者ではデイリー200位以内にも入っていない曲がある)、それにより多数のストリーミング業者で上位に入っている曲を上回ってしまう現象も起こってしまっている。これについては公式のPodcastでもチャートディレクターの礒崎氏が触れており、問題の是正が行われる可能性をうかがわせた。

 本来であればこのような影響の大きい変更はこの時期であれば下半期の開始まで待つところだが、事態を重く見たBillboard Japan側が下半期を待たずこの変更に踏み切ったのは大きな意味があるだろう。

 

 

 ただLINE MUSICやRakuten Musicが行っている事が「悪」なのか? と言われれば、そうとも言い切れない部分がある。

 もちろん再生回数キャンペーン自体はコアファン向けの施策であり、CDに特典を付ける商法をデジタル化したとも言える。特にLINE MUSICのランキングはこのようなキャンペーンをしている曲が上位を占めており、他のランキングと比べ明らかに様相が異なる(さすがに年間ランキングとなると他との差は少なくなる)。ただこれらのキャンペーンをやっている曲が総じてその他の業者を含めたBillboard Japanやオリコンのストリーミングチャートで上位に入っているかと言えばそうでもない。一部の突出した再生数を誇っている曲が問題視されているのである。

 そして再生回数キャンペーン自体は「ユーザー獲得のための営業努力」である点も考慮しなくてはならない。この点はCDと言う統一規格の中で行われている事とは一線を画しており、それにより一定の効果が得られているのであれば業者としては「成功している」と言えてしまうのである。日本におけるストリーミング市場はまだまだ成長の余地を残していると言われており、これらの施策で得られるユーザーもいるのもまた事実と言えるだけに、頭ごなしに再生回数キャンペーンを「悪」と決めつけるのは良くないだろう(ただ、ここで得られたユーザーが推し以外の曲を聴くかとなると話は別になりそう)。

 

 

 しかしながら今回のBillboard Japanでの変更は、ストリーミングでの再生回数に対する信用性を失いかねない事態となっている。残念ながら今の日本の音楽ファンからは、未だにストリーミングでの再生回数は信用を得るに至っていない状況であると言え、昨年の日本レコード大賞で大賞を受賞したDa-iCEの「CITRUS」に対し、1億以上のストリーミング再生数があるにもかかわらず「買収」や「出来レース」との批判が続出したところからもそれがうかがい知る事が出来る(ジャニーズが彼らを音楽番組から締め出し認知度を抑制していた点も延焼の原因となっている)。1億ストリーミング再生を達成するような曲はヒット曲である事が周知されていれば、このような事にはならなかったはずだ(ただ大賞候補だったAwesome City Club「勿忘」は2億ストリーミングを記録しており、大賞を分けた差は売上が少なかったとは言え、シングルCDをリリースしたか否かの差ではないかと疑われている)。

 ところが今回の件を受けて、「これじゃ3億とか5億とか言われても信用できない」との話も浮上している。とは言え再生回数キャンペーンで得られる累計再生数は高くても現状2000万程度で、1億どころか日本レコード協会での最低認定数である5000万にも程遠い数字となっており(3000万での認定は昨年度で廃止になっている)、1億再生以上の価値を落とす必要は無いと言える。その点は特典効果でいきなり週間50万枚以上売れてしまい、年間ランキング上位が確定してしまうCD売上とは異なる。

 だが何故日本の音楽ファンは未だにストリーミング再生数を信用しきれないのか。おそらく以下の点が引っかかっているのではないだろうか。

  • CDでの特典商法により生じた嫌悪感
  • 主にK-POPで見られるYouTubeでの再生回数疑惑
  • オリコンの影響力

 前述の通り、再生回数キャンペーンはCDでの特典商法の延長線上とも受け止められる。コロナ禍においてCDに特典を付けてイベントを行うのが難しくなったため、その特典商法をデジタル化した結果とも言えるだけに、そこでCDの特典商法同様、意図的に増大された数字を混ぜる事に嫌悪感があっても不思議ではないだろう。

 また日本においても影響力が強いK-POPYouTubeでの再生数に疑惑が寄せられている。これはここ最近に限った話では無いが(古くは「江南スタイル」から)、「PC数十台で同じMVをエンドレス再生している施設がある」疑惑も持たれており、一部K-POPのMVで億単位の再生数が目立っているが、イマイチ信用されていないのもまた事実であり(Billboardオリコンは国内での再生数のみ対象のため、表示されている全世界での再生数が反映されている訳では無い)、それが日本でのストリーミング再生数の信用性を落としている要因としても挙げられそうだ。

 そして日本において長らく音楽ランキングの主流として君臨し続けていたオリコンの影響力もあるだろう。一応オリコンもストリーミング再生数のランキングを発表しているが、それがCD売上のランキングと比べ取り上げられる頻度が少なく、結果ストリーミング再生数の信用性を引き上げられない(引き上げさせない)要因になっているとも言える。これはストリーミング数を加えている合算ランキングについても同様である(ただ合算の年間ランキングではストリーミング上位がCD売上上位を食い始めている)。

 

 この3点が相まって日本においてストリーミング再生数が信用されていない原因になってしまっているのではないだろうか。また、一人が複数カウント介入出来る(1人1票ではない)点も考えられるだろう。

 

 

 ただ世界的に見ればストリーミング配信の普及により音楽業界の売上は右肩上がりになっている(アメリカは底を打った時点から倍増している)。日本は諸外国と比べ音楽CDの価格が倍近く高く、それによる利益にも差があるため単純な比較は難しいが、日本の音楽業界全体の売上は下げ止まったままで上昇の気配がまだ見られていない。オリコンはあくまで業界向けのランキングであるため利益率の最も高いCD売上を重視しているが(逆に言えばダウンロードやストリーミングのランキングを意図的に目立させない事で、CD売上の優位性を保たせている)、それが音楽業界の世界的成長から取り残される原因になってしまっている可能性も否定できない。それに加え今回のBillboard Japanでのルール変更が悪い意味で音楽ストリーミングに対する不信感を強めたら、ますます日本の音楽市場が冷え込む可能性もあるだろう。

 

 ストリーミングの信用性とストリーミングでのヒット曲をどう広めていくか。再生回数キャンペーンに対する対策を含め、日本の音楽業界はこの問題に立ち向かっていかないといけない。日本の音楽市場はもうすでにかなりの遅れを取っているからだ。

 

続報:

 LINE MUSICも「再生回数キャンペーン」による異常な再生数を問題視しており、対策が取られている模様。