ストリーミング回数に対するBillboard Japanの苦慮

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 Billboard Japanは先日4月20日でのストリーミング回数に対する変更点に加え、5月11日に更なる追加対策を講じてきた。今回はストリーミング回数では無く、Hot 100へのポイント換算に関わる部分に手を加えてきた。

 今回の変更点は再生数が一部の業者に大きく偏っている楽曲に対し、Hot 100へのポイントを引き下げる施策となり、CD売上(現在は5万枚以上)にかけられる係数処理と同様の処置と言える。

 

 これだけを見ると前回の変更点と変わりないように見えるが、それが施行されて以降のデータで分かった部分についてもここでは触れていきたい。

 

 まず前回の再生数そのものに手を付ける変更点だが、これは再生回数キャンペーンによる再生数の増大ではなく、業界シェアの低い業者において不自然に再生数が高い楽曲に対しての施策だったようだ。具体的に言えばAWAのラウンジ機能がこれに該当するようで、ファンダムがその機能を使って特定の楽曲の再生数を意図的に上げる行為が行われているようだ。なお業界シェアがそれなりにあるLINE MUSICについては、これに該当しないようである。

 そして今回のHot 100へのポイントを引き下げる施策は、LINE MUSICやRakuten Muiscで行われている再生回数キャンペーンにより増大した再生数を記録した楽曲に対するものだが、これはCD売上の係数処理と同じように、一定以上の再生数を記録した週間上位の楽曲が対象となってそうだ。

 

 以前も触れたが、このようなチャートに影響を及ぼす変更は年度初め、もしくは下半期突入時、四半期の区切りと言ったタイミングで行われるのが理想だが、今回はそれを待たずに行われるのは、それだけ事態を重く見ての事だろう。CD売上とは異なり、1週間だけの結果で年間ランキングの上位が決まってしまう訳では無いストリーミング回数でのチャートにおいて、今回の変更はこのような施策やファンダムの自発的行為により年間ランキングに影響が及ぶ可能性があるところまでを見込んでのものと見られる。

 

 そしてこれによりストリーミング回数の説得力が失われる事が、音楽チャート全体の信用性に関わる問題に発展する可能性まで考慮した結果と言えそうだ。これも繰り返しになるが、キャンペーンによる再生数だけでは現状、週間チャートで1位になっても年間ランキングでは100位以内にすら入れず、もちろん1億再生まで達するような事はない。ヒット曲の基準としての1億再生の価値は変わらないものの、このような施策をしている曲が繰り返し週間チャートで1位になる事により、ストリーミングのチャートがイメージを悪くし、特典商法で説得力を失ったCD売上のランキングの二の舞になりかねない。

 

 ただ上記にも示した通り、CD売上とは異なり1週間だけの結果では年間ランキングに影響が及ばないのがストリーミングのチャートである。従って週間1位の価値はCD売上やダウンロード売上の週間1位よりも低いと言えるだろう。どうしてもオリコンを基準に考えてしまうと1位を取るのが重要視されそうだが、本来ヒット曲と言えるのは1位になるより、いかに上位に長く留まり続けられるかが重要ではないだろうか。Billboard Japan Hot 100も同様であり、「たった1週間の結果だけでヒット曲が分かる」のは不可能である。1位と取った翌週に見向きもされない順位に落ちては、「1位を取った記録」だけが残り、「人々の記憶」には残らないだろう。それでも前者をヒット曲と言えるだろうか? それはただの「ファンダムのがんばり」でしか無い。日本ではオリコンの影響でその「がんばり」だけがヒット曲として扱われ過ぎていたのではないだろうか。ビルボードはCD売上と今回のストリーミングへの対応により、ヒットチャートとしての機能と信頼を確保しようとしており、それが実際機能している。「ビルボードオリコン、ヒットチャートと売上ランキングはまったくの別物」である事を改めて知る必要があるだろう。

 

 そのオリコンは、今回の件については現状まったくの無反応である。「売上として反映させたいから」と言うのであれば、CD売上にかけられている精査と矛盾している対応と言えてしまう。やはり「CD売上はジャニーズが関わって、ストリーミングは関わっていないから」と言う、あくまでジャニーズが関わっているか否かの判断のように思えてならない。もちろん下半期に入った時点で対応する可能性はあるが、あまり期待は出来そうにない。単なる数字だけでは、もはや信用を得る事は出来ないのではないだろうか。