Billboard Japan Hot 100 2022 上半期チャートを見る

 Billboard Japanは10日に2022年度の上半期チャートを発表し、シングルチャートであるHot 100ではAimer「残響散歌」が1位を獲得した(集計期間:2021年11月29日~2022年5月29日、週間チャートでは2021年12月8日~2022年6月1日発表分の26週間)。

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 「残響散歌」はダウンロード、ラジオ、MV再生数の3部門で上半期1位。数字が見えているところではストリーミングでも僅差の2位となっており、特にダウンロードでは既に昨年の年間1位「ドライフラワー」の42.5万DLを上回る42.6万DLを記録し、2位以下に大きな差を付け、ここでのアドバンテージが上半期1位に繋がっているものと見られる。

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 ここでダウンロードとストリーミングの上半期ベスト10の数字をポイント化した表を用意したので、これで見比べて欲しい。

2022 上半期

 この2要素だけでも「残響散歌」は「ベテルギウス」に対し約3.5万Pt.の差を付けている。現状週間チャートでは「ベテルギウス」が上回っているため、この差は徐々に縮まりそうだが、他の要素を加え年間で逆転できるかとなると、かなり難しそうだ。

 

 ただこのダウンロードとストリーミングの数値は、昨年と比べ減少している。まずはダウンロードの昨年上半期の結果を見てみると…

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 昨年上半期1位、LiSA「炎」は39.7万DL(この時点での累計は98.4万DL)。1位の数字こそ今年の方が上だが、2位以下となると今年は既に20万DLを割り込んでいるが、昨年は7位までが20万DLを上回っており、10位は16.1万DL。対して今年は8位で10万DLも割り込み10位は7.9万DLと昨年の半数以下となっている。

 これはストリーミングの普及によるダウンロード市場の低下が著しい証拠であり、今年に入り急激にその規模が衰えてきていると言えるだろう。

 ただ昨年同様なのは、このベスト10のうち6曲がアニメ関連の曲である点。ひょっとしたらアニメを見ている人は、音楽系のサブスクではなく映像系(アニメを見るための)サブスクを利用し、主題歌はダウンロード購入している傾向があるのかもしれない(最近で言えば「パリピ孔明」の「チキチキバンバン」がこれにあたる)。アニメ主題歌も多くはストリーミングで配信されているが、週間300位の壁はなかなか厚く、ここでポイントを得られる曲が限られているのが現状である(去年は「うまぴょい伝説」が比較的長く300位以内に入っていたが、純粋なアニソン、ゲームソングで300位以内に食い込むのは稀)。ダウンロード市場は衰退の一途を辿るだろうが、それでも売れる特定のジャンルが生き残っていくのかもしれない。

 

 つづいてストリーミングの昨年上半期の結果を見てみたい。

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 昨年上半期1位、優里「ドライフラワー」は2.76億回。昨年は3位まで2億を上回っていたが、今年は2億を上回っている曲が無く、これだけを見ると昨年ほどストリーミングで流行った曲が無いように見えるが、10位の水準はほぼ昨年と同等ぐらいまで数字が落ち着いている。

 ストリーミング市場は日本でも上昇しているのは先日発表された日本レコード協会からのレポートでも示されているが、それでも上位の数字が昨年を下回るのは相反する結果のように見えてしまう。ただ10位の数字が昨年と近い数字になっているところを見ると、これ以下50位や100位辺りの水準が昨年を上回っている可能性は十分にありえるだろう。これはユーザー数の増大による多様性や、昨年下半期辺りからアプリのUIが改善され、ランキング上位以外の曲がプレイリストに入りやすくなったところも要因として挙げられる。

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 ところがそのストリーミング回数をめぐって問題が発生してきている。主にLINE MUSICやRakuten MUSICで行われている、一定期間での再生回数によって特典を得られるキャンペーン、またAWAのラウンジ機能等を使ったファンダム主体による再生数のドーピング行為が週間のストリーミングチャートに歪みを与えている。

 これらは年間ランキングで見ればそれほど大きな問題にはならないが、楽曲人気とは関係無い部分がチャートに反映されるのはCD販売による特典商法と変わりないだけに(ただしCD売上は年間ランキングに影響するため、その点は異なる)、ビルボードも4月、5月と立て続けに対策を講じてきた。ただ正直この対策も不十分と言えるだけに、更なる対策は必須だろう。

 

 とは言えあくまで週間チャートに関わる部分であり、ビルボードオリコンに比べ週間1位の優位性が低く、かつ継続的なチャートインが有効なだけに、あまり週間チャートだけを考えて対策を講じるのも考えものだろう。CD売上が週間チャートで有利に働くのも同様であり、たった1週間の1位だけでは、世の中から簡単に忘れ去られてしまうのは当然と言える(「タピオカブーム」がたった1週間だったら簡単に忘れ去られているだろう)。冒頭Hot 100上半期ベスト10で期間中に週間1位を取ったのは「残響散歌」と「一途」の2曲のみである。人気のある曲が週間1位を取れないのは「週間チャートの機能不全」とも言われているが、むしろ週間1位を取れなくても継続的な上位チャートインで上半期、年間で上位に入れるのはヒットチャートとして正常に機能している証拠なのではないだろうか。

 

 ただBillboard Japanにおいて最近問題になっているのは、発表後の訂正による差し替えが以前から減っていない点だろう。オリコンと違い集計を外注に委託しているためビルボードだけに原因がある訳では無いが、外注先の監督責任を含め度重なるチャートの訂正は信用問題になりかねないだけに、その点は気を付けてもらいたい。