11月17日にTBS系で「歌のゴールデンヒット」が2年ぶりに放送された。オリコンの全面協力により過去8回にわたりテーマを設けてその部門においてテーマに該当する楽曲、歌手を発表する音楽特番となっている。
しかし過去に放送された回ではCD(レコード)売上のみを参考としていたため、特に第5弾以降の歴代ランキングや100万枚以上を売り上げた曲を特集する回においては、CD売上全盛期である1990年台の曲が中心となり、CD売上の下落傾向が強まり、音楽ダウンロード販売が徐々に進出してきた2005年以降の曲が取り上げられにくくなっていた。
そこで今回は2019年度から発表されている、CD売上に加え、ダウンロード回数、ストリーミング再生数を加えポイント化した「合算シングルランキング」と同様のポイントシステムにより、歴代ランキングを作成した(ここでのストリーミング再生数はYouTubeも含まれるが、主にサブスクでの再生数と考えていい)。
これにより今までは不利だったCD売上が相対的に低い年代の楽曲、またシングルCDとしてリリースされていない楽曲も対象とし、過去と現代の公平性を担保したランキングを作成した…
ように見えた。
ところがこの歴代ランキングにはあまりにも致命的な欠点があった。オリコンがダウンロード回数の集計(ランキング)を始めたのが2018年度からであった(ストリーミングの集計は2019年度からとなり、YouTubeなどのMV再生数が取り入れられるのは2020年9月14日から)。
上記の通り2005年以降、CD売上の下落傾向が強まった要因の1つが音楽ダウンロード販売の進出と見られており、その全盛期は2010年前後であった。にもかかわらず、その時期のダウンロード回数のデータがまるまる欠損しているのは致命的である(ストリーミングも同様に、集計開始以前の記録は無効となっている)。
しかもオリコンがダウンロード回数のランキングを始めなかった理由の1つが「利益率の高いCD売上に取って代わられると、収益に問題が生じる」と言うビジネスライクなところであるようだ。2000年台前半にパソコンの普及によるCDの違法コピー問題が起こり、その対策(CCCD等)での出費も大きかったところに追い打ちをかけるかのような音楽ダウンロード販売の進出で、これ以上の利益減は避けたかったところはあるだろうが、「利益」と「流行」は別問題であり、これを引き離せなかったオリコンがこれ以降ヒット曲を示せなくなるきっかけとなってしまったのかもしれない。また価格の異なるCDとダウンロード販売を同じテーブルに立たせたくなかった(ダウンロード売上を格下扱いしたい)ところもありそうだ。
オリコンはあくまで業界向けの調査会社である都合上、このような対応になるのは仕方のない部分もあるが、もしヒットチャートを作る志があれば、このような対応にはならず、2010年以前からダウンロード回数のランキングを作っていたであろう。シングルCDの売上は高くなかったものの、この部分において強さを発揮していた西野カナやいきものがかり、倖田來未がランクインしていなかった要因は、この時期のダウンロード回数をオリコンが無視していたところにある。またこれにより、2010年前後のヒット曲が不当に過小評価されている原因も作り出してしまっており、歴代ランキングとしては不適切との声もある。
なお、歴代のダウンロード回数については日本レコード協会の認定記録がもっとも適切とされている(認定開始以前の記録も有効のため)。この認定記録に関しては協会の会員レーベルが対象のため、インディーズや一部レーベルは対象外となっているが、大手レーベルはほぼ対象となっているため有用と言える。ログイン無し、無料で検索も可能なので、時間がある時に調べてみるのもいいだろう。なお、女性ボーカルでの最高記録は青山テルマ feat.SoulJa「そばにいるね」の3ミリオンであり、本来であれば今回のルールに合わせると120万Pt.以上(46位以上)入っていないといけない。
またこの合算ランキングはパッケージ単位での集計となっており(Billboard Hot 100のような1曲単位での集計ではない)、シングルCDでリリースした作品であれば、カップリング曲のダウンロード回数、ストリーミング再生数も有効となっている。参考までに今年上半期の合算シングルランキングを見てみると、1位は両A面となった2曲が共にストリーミング再生数の多いKing Gnuの「一途 / 逆夢」となっている。
これにより今回のランキングで5位になったのがNiziUの「Step and a step」である。番組では「Step and a step / Make you happy」と表記されていたが、正確には「Step and a step」の1曲A面シングルであり、「Make you happy」は2曲目どころか4曲目の収録となっている。この場合は表題曲よりカップリング曲の方がポイントを稼いでしまっており、本来の表記の「Step and a step」がそれだけの結果を残したと誤解される恐れもある。
「ルール上仕方がない」とも言えるが、番組側が事前にちゃんと説明していたかどうかで印象は変わるだろう。逆に言えばCDでリリースされていない曲もCDで売ったパッケージと同じ基準でポイント化されているため、かなり不利を伴う形になる。
しかし1位になったのはシングルCDとしてリリースされていないYOASOBIの「夜に駆ける」だった。
今週、オリコン調べで7億ストリーミング再生を達成しており(Billboard Japanでは6月時点で8億に達している)、現在ストリーミング再生数においては国内最高記録を持っている楽曲である。これにダウンロード回数を加算してCD売上では最多だったDREAMS COME TRUEの「LOVE LOVE LOVE / 嵐が来る」を上回り1位になった。
これには賛否両論あるが、それを踏まえて、改めて合算ランキングのポイント換算「1CD = 2.5DL = 300St.」が(歴代ランキングを出すにあたっても)適切かどうか、またYOASOBIだけでなく、ストリーミングを中心に上位に入ってきたLiSA(8位)、あいみょん(16位)、Ado(38位)、Aimer(40位)が適切な順位であるかどうかも考える必要がある。
そしてなにより音楽配信の無かった20世紀、CDやレコードは発売1週目だけ売れるものでは無かったところは考慮するべきだろう。そうなるとYOASOBIの1位は十分評価に値するものではないだろうか。
特典商法の横行以降、今やストリーミングでの音楽視聴が一般的になりつつある中、「売れた」と「流行った」は別問題となっており、オリコンは今でも(ジャニーズのために?)CD売上を全面に押し出し、なんとしてでもこの2つを符号させたかったのだが、今回の結果はひょっとしたらオリコンの意思とは反するものになってしまったかもしれない。もはや「流行っている曲」に対し「どれだけ売れてるの?」と聞くのは時代遅れと言えるだろう。番組は「歴代歌姫の1番売れた曲ランキングBest100」と銘打ったが、それを身をもって否定したのかもしれない。
ただし…
オリコンは現在、特典絡みのCD売上を意図的に引き下げて発表している(当初の目的はAKB48の200万枚達成を阻止させるためと推測されている)。実は女性歌手・グループのCD売上最多記録はドリカムでは無く…
AKB48「Teacher Teacher」(293万枚以上)
すべてを覆してしまっている。ただし将来的に「夜に駆ける」がこの記録を上回る可能性はあるだろう。