2022年音楽年間ランキング総まとめ

 2022年も残すところあと1週間。2022年の年間ランキングではどのような動きがあったか、Billboard Japanオリコンの年間ランキングを見ながら振り返ってみましょう。

 

 まずはBillboard JapanのメインチャートとなりますHot 100の年間ランキングです。発表当日に(予約投稿の形で)速報版を出しておりますので、今回はそれ以外の部分について触れていきたいと思います。

amano-yuuki.hatenablog.jp

 

 まずは(CD売上のポイントに係数処理を施すようになって以降となる)2017年度以降、売上3要素での年間100位以内が、どれだけHot 100の年間100位以内にも入っているかをまとめてありますので、こちらをご覧ください。

 このようになっており、CD売上の年間100位以内からHot 100の年間100位以内に入った曲が昨年からほぼ半減して以下の10曲のみになってしまっている。

※ 係数処理が施されているため、上表では「ミックスナッツ」以外「CD売上枚数 = CD売上での獲得ポイント」ではない。

 

 CD売上のポイントについては2022年度開始時点で係数処理の適用下限が9万枚から5万枚に引き下げられ、10月19日発表分以降、係数処理のパーセンテージが厳しくなっている傾向が見られている(ただし7月20日発表分以降、係数処理は原則1位にのみ適用となった)。さらに昨年9月(第4四半期)からルックアップのポイント換算が大幅に引き下げられた影響(1/3近くまで下げられたと見られる)も大きく、これだけの減少になったものと見られる。またCD売上で年間1位の「オレンジkiss」がHot 100で年間100位以内に入っていないのも注目点だろう。

 ここに入っている10曲はCD売上以外で強い部分があり、Hot 100でも年間100位以内に入っているものと見られる。ストリーミングは年間100位以内がほとんどHot 100でも年間100位以内に入っているため、ここが一番重要な部分である事に違いない(ただINIとBE:FIRSTはLINE MUSICでの再生回数キャンペーンや、INIはAWAでのドーピング行為の問題がある)。音楽配信の無いジャニーズの2曲はMV再生数で年間上位に食い込んでいるものと見られる(ルックアップやツイートのポイントはそこまで大きくない)。ただ効果としてはストリーミング数に劣ってしまうため、順位がそこまで上位になっていないようだ。

 ただ逆に言ってしまえば、残る90曲はCD売上が100位以下、もしくはシングルCDとしてリリースされていない曲となる。そもそもダウンロード販売が登場した2000年台後半以降、特典商法もあり「CD売上 = 楽曲人気」の構図が崩れ、昨今ではCDプレーヤーの普及率も減少しており、CDがコアファン向けのアイテムになっている以上、CD売上がヒット曲の指標として扱いづらくなっているのは事実だろう。更に日本ではCDそのものの価格が諸外国より高く、物価高が続くとなると、ますますライトユーザーは、決して安いとは言えないCDを手にしづらくなりそうだ。その状況からすれば、ヒットチャートにおいてCD売上上位を入りづらくするのは間違えでは無い。

 48Gや坂道系などのアイドルが来年から接触商法を復活させるとの一部情報もあるが、コアファンだけのCD売上で「その曲がヒットしている」とするのは、もはや無理強いとも言えてしまっている。しかしそれでも、業界向けに利益を重視しているオリコンはCD売上と利益を最重要としてランキングを発表し続けてしまっており、それが長年に渡り音楽ランキングの中心的存在だったがために、未だ影響力を持ち続けてしまっている。ただサブスクがこれだけ普及してしまった以上「売れている曲 = 楽曲人気」の構図も崩れているだろう。CD売上は今や「コアファンの熱量」と捉えるべきだが、オリコンはその基準を変えず未だ「ヒット曲」として扱い続けてしまっている。それが今のBillboard Japanとオリコンの信頼性の差になってしまっているだろう。

 更に言ってしまえばオリコンは特典商法や複数枚数購入を促す商法に対し、「1会計につき3枚以下」で集計し、該当するCDは実際の売上から間引いた数字で発表しているが、その調整した数字を「売上」と称して発表するのは如何なものだろうか(もちろん、年間ランキングにあるアーティストトータルセールスもその間引かれた数字で計算される)。しかもこの施策についてはジャニーズ事務所が影響を及ぼしている疑いが強く、公平性と言う点でも疑惑がもたれている。この点は「CD売上 = 楽曲人気」を維持したいがために行ったとも言えるが、その構図が崩れてしまった以上、もはやCD売上を誤魔化して発表するのは無意味ではないだろうか(利益を優先させているはずなのに、CD売上を間引いて発表するのは矛盾しているとも言える)。それでもなお、音楽配信をほとんど行っていないジャニーズのためにそれを維持させたいのであれば、根幹であるCD売上ですら一部下方修正して発表しているオリコンは、ますます支持を失うだろう。

 そもそもCD売上だけの単一要素でヒットチャートを作ろうとしている時点で無理がある。そしてそれをヒットチャートとして祀り上げたマスコミにも問題はあるし、それをヒットチャートとして受け止め続けてしまった側にも問題がある。オリコンは愚直に売上を発表し続け、これが現状であるのを示し続ければ良かったのだ。「AKBに200万枚を記録させたくない」との横やりを入れる必要は無かった。ダウンロード売上も2010年以前から集計できていたであろう。Billboard Japan Hot 100に近い形式のトラックスランキングも存在していた。では何故変われなかったのか。それが業界のしがらみと既得権益によるものであれば、巻き込まれた側も不幸である。今ある合算ランキングもCD単位での集計で、ヒット曲を示しているとは言い難い(そもそも、最も利益を上げたCDパッケージを知りたい人がいるだろうか?)。それでもオリコンは、今まで培ったコネでマスコミを支配し、自分たち(CD売上)の権威を誇示し続けるのであろうか。…いや、誇示し続けられるのであろうか。オリコンによりヒット曲を失われた10年以上の歳月が日本の音楽業界の文明的発展を妨げているようであれば、それは追及されなければならない問題である。

Billboard Japan 2022 年間シングルCD売上ランキングベスト10

Billboard Japan 2022 年間シングルCD売上ランキング(100位まで)

オリコン 2022 年間シングルCD売上ランキング上位25作

オリコン 2022 年間合算シングルランキングベスト10

※ 集計期間が2週間異なる。オリコンの年間1位「ツキヨミ / 彩り」はFC限定版がサウンドスキャンでは集計対象外のため、オリコンの方が高い(正確に近い)数字になっている。

 

 ダウンロード売上年間100位以内からは54曲がHot 100の年間100位以内にランクイン。ここは年度毎に多少の変動はあるが、サブスクの普及により年々市場規模が低下しており、チャートに与える影響力も相対して低下している。年間1位のAimer「残響散歌」は昨年1位の優里「ドライフラワー」(42.5万DL)を上回る47.3万DLを記録したが、年間10位で見ると昨年の菅田将暉「虹」が24.0万DLに対し、今年のOfficial髭男dism「Subtitle」は15.4万DLと低下が顕著に表れている。ただそれでも、サブスクを契約するまででは無いが、好きな曲は手元に有って欲しいと思うユーザーが一定数いるのであれば、CD売上と比べヒット曲を示す要素としては有用ではないかと思われる。現在の日本はスタグフレーションが起こっている最中であり、月額980円の音楽サブスクも値段相応に利用しないのであればそれを解約し、ダウンロードの方が安上がりで済むユーザーが増えるかもしれない。この点は速報記事でも触れたが、アニメファンがアニメを見るためのサブスクは利用するが、音楽を聴くためのサブスクには契約していない傾向と同じだろう。そう言う点があるのであれば、今後はダウンロード売上で上位に来る曲のジャンルがはっきりしてくる可能性もあるかもしれない。

Billboard Japan 2022 年間ダウンロード売上ランキングベスト10

Billboard Japan 2022 年間ダウンロード売上ランキング(100位まで)

オリコン 2022 年間デジタルシングル(単曲)ランキングベスト10

 

 一方、コロナ禍を機に日本でも急速に需要を伸ばしているのが音楽サブスク市場である(ストリーミングと言うとMV等の映像系も含むが、ここではオーディオストリーミングのみを扱う)。2020年度以降、ストリーミングの年間100位以内がHot 100の年間100位以内への進出が大幅に増加し、今年も100曲中88曲がHot 100の年間100位以内に進出している。

 ただ上記CD売上の部分でも触れたが、主にAWAのラウンジ機能を利用した再生数のドーピング行為や、LINE MUSICでの再生回数キャンペーンによる再生数の増大問題が顕著になり、Billboard Japanでは4月と5月に相次いで対策を講じた。またLINE MUSIC自身もキャンペーンでの再生数に対し独自で調整を行った結果(AWAも年間ランキングでは調整が行われていた模様)、局地的で不自然な再生数を抑制させるに至っている。今年のランキングはその移行期間があったためその影響は残っているものの、来年以降は正常化するだろう。

 ユーザー数の増大に伴い、ようやくランキングの流動性も増してきた感がある。再生数で見ると年間1位のTani Yuuki「W / X / Y」は3.28億再生で、昨年1位の優里「ドライフラワー」の4.71億。年間10位で見ると今年はKing Gnu「一途」が2.04億、昨年10位はAwesome City Club「勿忘」が2.47億と、ここだけ見ると数字は昨年より落ちているように見えるが、市場規模が拡大している点を考慮すると50位、100位辺りは昨年以上の数字になっている可能性が高い。ただ日本ではランキングや履歴を聴くユーザーが多く、諸外国と比べるとランキングの変動はまだまだ盛んではない。言い方が悪いかもしれないが、「ドライフラワー」や「夜に駆ける」、「Pretender」辺りが年間上位に居残っているようでは保守的なユーザーが多いとも見られてしまう。世界的に展開しているサブスクが多く日本独自の対策は難しいかもしれないが、リカレント・ルールのような条件を満たしたらランキングから強制退場させられるようなルールが必要なのかもしれない(例:YouTubeのランキングは原則公開から1年経過で除外される)。

 あとはストリーミング回数での記録に対する地位の向上が求められる。1億はおろか5000万もそう簡単に到達できる数字ではないため、ストリーミング回数での記録はもっと評価されるべきであり、運営側ももっとアピールするべきだろう。ただそれに対する信用問題があれば、それを取り払う必要もある。ストリーミング回数での記録が以前のCD売上並に信用できるものとして扱えるようになれば、遅ればせながら日本の音楽業界も新時代に突入するだろう。

Billboard Japan 2022 年間ストリーミングランキングベスト10(ストリーミングの形式やユーザー区分によりポイント化されているため、「再生数 = 順位」ではない、またMV再生数は含まれていない)

Billboard Japan 2022 年間ストリーミングランキング(100位まで)

オリコン 2022 年間ストリーミングランキングベスト10(MV再生数を含む)

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 ここでダウンロード売上とストリーミング再生数の年間トップ10をポイント化(推定値)した表を作ってみたので、これもご覧いただければと思います(曲名が黄色表示はシングルCDの表題曲としてもリリースされている曲)。

2022 Download + Audio Streaming Points

 このような結果となっており、「W / X / Y」と「ベテルギウス」はダウンロードでのポイントを加えても「残響散歌」を逆転できない差となっている(ダウンロード10位の「Subtitle」が18,430Pt.のため)。ただ「残響散歌」のダウンロードのポイントでもストリーミングと比べると決して高くは無く、「シンデレラボーイ」や「なんでもないよ、」のようにダウンロード売上の順位が低くても、ストリーミングの順位さえあれば巻き返しが可能な(逆に言えば「M八七」のように、ダウンロード売上が高くても、ストリーミングの結果が出ていなければ順位は伸び悩む)状況となっている。

 

 その他の部分は有料課金ユーザーのみが見られる部分なので細かい部分までは書けませんが、部門年間100位以内の占有率が上昇したのはカラオケだけでした。ただこれもストリーミングとの相関性が見られたので、サブスクで気に入った曲を歌う傾向が強まっていると言えるでしょう。MV再生数の占有率は微減ですが、重要性は高いまま。ラジオも減少していますが、平均値に戻ったぐらいで占有率はこの6年で大幅な増減は無し。2022年度をもって廃止となるルックアップとツイートは減少。特にツイートは半減しており、昨年9月にポイント換算が減少したためか、大きく影響力を落としました。

 占有率を表すと、

ストリーミング<<MV<ダウンロード<カラオケ<<ラジオ<<ルックアップ<ツイート<CD売上

 こんな構図になりました。

 

 

 果たして来年はどんなヒット曲が登場するのか。ただその曲の存在をしっかり表せるようなチャートで無ければ、ヒットチャートとは呼べないだろう。