AKBから見る音楽業界の変化

元記事
 

 今朝方、大変興味深い記事が挙がっていたので、ちょっとずつ掘り下げていきたいと思います。要はオリコンにおけるAKBの寡占状態にマスコミが人気の面で疑問を持ち始め、取り扱っている音楽チャートをオリコンからビルボードに置き換えるようになった点。そしてAKBがK-POPに挑戦し、あからさまになったメンバーと運営のモチベーションの差と言うところだ。ここではチャート面について触れたいと思います。

 
 ちなみに言うと総選挙の番組視聴率のグラフ、番組全体の視聴率じゃないんだよね。21時前で一区切りされて、それ以降を第2部として別に数字を取っているから番組全体の視聴率となるともっと低くなります。昨年を例にすると第1部(19:00~20:51)が5.7%、第2部(20:51~21:24)が11.0%。よく持ち出されているのは上位が発表された第2部の数字で、番組全体の視聴率では8%ぐらいになるでしょうか。
 
 で、AKB商法の話。オリコン年間ランキングの推移を見ると勢力図がはっきり見えるがAKB年間ベスト30に2009年に初めて入り、翌2010以降は上位を独占するに至っている。2008年に特典内容が独禁法違反に当たるとしてソニーミュージックから離脱。その年の秋に現在のキングレコードに移籍して現在のようなAKB商法が確立され今日まで至っている。続いてBillboard JAPAN Hot 100(年間チャート)の推移を見てみると、AKB系は2011~14年、そして16年と上位にランクインしている。Billboard JAPANのCD売上はオリコンでは無くサウンドスキャンを用いており、2016年1月までは実店舗で販売されているパッケージのみが集計対象(AKB系で言えば劇場盤は集計対象外)だったが、それでも年間上位に複数曲をランクインさせるだけの人気があったと言えるだろう。実際総選挙の視聴率も最高点は2013年となっている(この数字は総選挙の結果が全て出るまでの数字なので参考とする)。なお2016年の年間1位だけは劇場盤が集計されるようになり、その枚数を現在のように減算処理せずにポイント化したため、CD売上の影響力が大きく出た結果である(よって参考外)。
 
 となると見てみたいのは、元記事でも指摘している「AKB商法による効果がこの3~4年間で徐々に薄れ始めた」部分である。2015年のBillboard JAPAN Hot 100 年間チャートを見ると、それまで年間ベスト3入りしていたAKB系がごっそりいなくなっている。ビルボード側がポイント比率を変更した可能性はあるものの、ここを境にAKB系に対するCD売上と実人気の乖離が徐々に浮き彫りになっていったのであれば納得のいくところだろう。ちなみに当時Billboard JAPANのチャート要素はCD売上、ダウンロード売上(2011年度から導入)、ラジオと2014年度から導入され始めたルックアップ(CD稼働数)とツイート。更に2015年度下半期からはストリーミングとMV再生数の要素が追加されている。そして翌2016年の年間チャートではジャニーズ系も上位からごっそり姿を消し(唯一ベスト10入りしたのが解散騒動に揺れたSMAP)、2017年からは坂道が上位に食い込み始めている点も見るべきところだろう。
 
 ここら辺からマスコミがオリコンと共にビルボードを取り扱うようになり、Mステが2016年秋からCDシングルチャートを発表を止め、CDTVも2017年4月からオリコンからビルボードに基準を切り替えた展開期と言える。オリコンが今後取り扱われなくなる事は(圧力を含め)無いだろうが、影響力は今後も薄くなるのは間違えないだろう。なお今季からオリコンもダウンロード売上とストリーミング回数を含めた売上合算ランキングを始めたものの、CD単位(シングルCD化されていない楽曲は1曲単位)での集計となっており、かつCD売上の影響力が強すぎる事から、マスコミ各社の取り扱いも従来のCD売上のみのランキングと比べ反応が鈍い印象が強い。加えAKBのファンもオリコンが発表しているCD売上枚数が、複数枚数を売る販売施策に対する加算制限(いわゆる「精査」)により、本来の売上枚数から意図的に減らされた枚数を発表させられ(全体的には2016年9月から施行されているが、AKB系だけは2014年から施行されている疑いあり)、ビルボード側のサウンドスキャンはそれを行っていない事から、AKBのファンですらオリコンから興味が離れている現実もある(元記事ではオリコンシングルランキングを語っている部分で『「Teacher Teacher」は、300万枚を超えるほどのヒットとなった』と記載されているが、これは日本レコード協会による出荷枚数を指しており、オリコンでの計上枚数は181.9万枚。一方サウンドスキャンは293万枚)。全てはオリコンがCD売上以外の要素を軽視していた(実際現オリコン社長はCD売上以外の要素を「不純物」とまでこき下ろしていた)結果とも言えなくは無いが、CD売上以外の要素を取り入れたら一番困るのは誰だろうか。と思った時にたどり着くのはAKBではなく、実はジャニーズなのではないだろうか。とも思ってしまう(「不純物」発言も根幹にあるのはここ?)。オリコンがジャニーズのやり方に合わせたがためにAKBが目立ちすぎてしまい、それが原因で時代遅れのランキングになったとすれば被害者は誰だろうか。少なくとも、調査会社としての公平性を自ら投げ捨て、時代に対応出来なかったオリコンが廃れるのは当然の流れだろう。
 
 しかしAKB総選挙が今年行われない事により一番影響を受けているのは誰か。それは、CDそのものを製造・販売している業者ではないだろうか。ただでさえ総選挙中止だけでも年間の生産量は150万枚近く減るのだからその影響は大きいだろう。大手マスコミがこのような「オリコンよりビルボード」と切り出す記事は(圧力もあってか)あまり見受けられないが、今回これがヤフトピで取り上げられた事により、その風潮がますます強くなる事を願います。