Billboard Japan 2023 上半期チャートを見る

 Billboard Japanは9日に2023年度の上半期チャートを発表し、楽曲別チャートであるHot 100ではOfficial髭男dism「Subtitle」が1位を獲得した(集計期間:2022年11月28日~2023年5月28日、週間チャートでは2022年12月7日~2023年5月31日発表分の26週間)。

 

 まず昨年度から今年度にかけての変更点をおさらいすると、CDの稼働数を集計していたルックアップと、曲名・歌手名のツイートを集計していたツイートの要素が廃止となり、Hot 100は8要素から6要素へ、Hot Albumsは3要素から2要素に減らされているので、昨年度との比較の際には留意しておきたい。

 

 「Subtitle」は昨秋放送されたドラマ「silent」の主題歌として昨年10月12日にリリースされ、以降のチャートを席捲し、昨年の年間ランキングでもリリースから約1ヶ月半で27位にまで食い込んでいた。今季に入っても好調を維持し、特にストリーミングのチャートではほぼ半年に渡る25週(2023年度内では19週)連続1位を記録。Hot 100では新記録となる通算13週(うち今季は9週)に渡り1位を獲得した。

Official髭男dism「Subtitle」 CHART insight

 昨秋放送されたアニメ「チェンソーマン」の主題歌として「Subtitle」と同日にリリースされた米津玄師「KICK BACK」は、ストリーミングチャートで17週(うち今季は11週)に渡り2位をキープ。「Subtitle」の陰に隠れてしまった感は強く、要素別での上半期1位は無かったものの(今季はHot 100を含め要素別の週間1位も無い)、高い水準を維持し他の曲を抑え上半期2位となった。

米津玄師「KICK BACK」 CHART insight

 そして目下チャートを支配しているYOASOBI「アイドル」が、わずか7週間で上半期3位にまで食い込んできた。現在放送されているアニメ「推しの子」主題歌として4月12日にリリースされたこの曲は、歴代最短となるリリース5週目での1億ストリーミングを達成。週間1位獲得が難しいとされるカラオケにおいても、リリース7週目で首位に立っている(これも最短記録かと思われたが、LiSA「炎」が6週目で達成しているため、最短ではない)。

YOASOBI「アイドル」 CHART insight

 

 以下、2020年5月11日リリースながら、昨年のNHK紅白歌合戦で披露されて以降目覚ましい動きを見せたVaundy「怪獣の花唄」が4位。「THE FIRST SLAM DUNK」として映画共々大ヒットとなった10-FEET「第ゼロ感」が5位に入っている。

Hot 100 上半期ベスト100

 

 一方でCD売上を中心とする曲の中ではKing & Prince「ツキヨミ」が32位に入っている。この曲は昨年11月9日リリースでCDリリースから3週間分は昨年度の扱いとなり、本来であれば初動CD売上のポイントが含まれない翌年度の上半期チャートでこの順位に入るのは難しいのだが、このCDがリリースされる直前の11月4日にメンバー3人の脱退が発表され、ファンが奮起。MV再生数では計14週(うち今季は12週)に渡り首位を獲得し、水準は低いものの、リリース以降CD売上も40位以内をキープしている(上半期でのCD売上は16位)。MV再生数はストリーミング回数と比べ数字が低く、ポイントの積み重ねとしては効果が低いものの、基本音楽配信を行っていないジャニーズ勢でも、MV再生数次第では上位に食い込める可能性を示す結果となった。

King & Prince「ツキヨミ」 CHART insight

 

 ここで売上要素3項目における上半期トップ10に入った曲の推定ポイントをまとめた比較図を用意したので、これを見てみたい。

2023 1st Half Ranking

 「Subtitle」は上半期だけでも2.88億St.と、2位の「KICK BACK」に9400万差を付け、推定のポイント換算でも5万以上、ダウンロードを加えると6万以上の差になっている。しかし「Subtitle」と「KICK BACK」が上半期26週間での数字であるのに対し、「アイドル」はたった7週間でここまで達している。おそらく「KICK BACK」はおろか「Subtitle」から年間暫定1位を奪えるペースと言えるだろう。

 ダウンロードのトップ10は7曲、20位までで見ると11曲ががアニメタイアップとなっており、ここは昨年も指摘した通りアニメを見るためのサブスクは利用するが、音楽系のサブスクを利用していない層が、CDより早く安く楽曲を入手できる可能性があるダウンロード販売での購入を利用しているように見える。

 なお昨年との比較で見ると、昨年上半期1位のAimer「残響散歌」はこの時点で42.6万だったが、今年の上半期1位は20.2万と半減。10位も昨年のLiSA「明け星」は7.9万、今年上半期は7.3万と全体的に水準は落ちてきている。ポイントで見てもストリーミングのポイントと比べれば影響は小さく、ダウンロード売上だけでは週間でもHot 100の上位に入るのは難しくなってきている。

Download Songs 上半期ベスト20

 

 一方ストリーミングだが、上半期の時点で上位18位までが期間1億再生を突破。ポイントを見ても分かる通り、現状ストリーミングでの長期的な結果がHot 100の順位に直結しており、ストリーミングでの上半期上位11曲が、そのままHot 100の上半期上位11曲となっている。

 ここも昨年と比較すると「Subtitle」の2.88億は、昨年上半期1位の優里「ベテルギウス」1.96億を大幅に上回っており、一昨年の上半期1位優里「ドライフラワー」の2.76億も上回っている。10位で見ても「ダンスホール」の1.30億は、昨年上半期10位「W / X / Y」の1.20億、一昨年上半期10位「Stand by me, Stand by you.」の1.21億を上回っている。ただ水準としては頭打ちしている感もあるため、今後はストリーミング市場の成長期とは違うプロモーション戦略を必要とするかもしれない。

 また日本のストリーミングにおいて「ヒットの固着」問題が取り上げられ、それが過度に変動の少ないチャートを生み出している恐れがあるとの報告もなされている。実際Spotifyデイリーランキングにおいて、5月の1ヶ月間で50位以内と51位以下との入れ替わりがたった4曲しか発生していない事例が見受けられた。おそらくこの現象はランキングのプレイリストがあるサブスク業者全体で起こっている可能性があり、それが変動の少ないチャートを生み出してしまっているとの指摘がされている。実際上半期Hot 100を見てみると、「W / X / Y」をはじめ昨年上半期以前にリリースされた曲が散見しており(「First Love」のような契機があった曲は除く)、それらが新曲の進出を阻害しているようにも見受けられる。名曲は語り継がれるべきだが、それがあまりにも長期的にチャートに残り続けてしまうのも問題だろう。日本のサブスクユーザーは「お気に入り」や「履歴」、「ランキング」を中心に聴いてしまっているために起こっている現象だが、それ以外を聴かせるための努力をサブスク業者には行って欲しいものであり、必要であればBillboard Japanもリカレント・ルールのような超長期的にチャートインしている曲に対する措置を施す必要もあるだろう。

Streaming Songs 上半期ベスト20

 

 なおCD売上は、上半期1位の「Life goes on」ですらHot 100の上半期100位以内にチャートインできていない。やはりルックアップが廃止になった影響が大きく、ジャニーズ勢で100位以内に入ったのは先述の「ツキヨミ」(CD売上16位)と78位に入った「タペストリー」の2曲のみ。上表以外ではLE SSERAFIM「FEARLESS」(CD売上11位)が49位に入っているが、CD売上20位以内で上半期Hot 100に入ったのは「ここにないもの」を含めても4曲だけとなる。

 CD売上だけでは楽曲人気を計るのが難しくなっており、やはりヒット曲と呼ばれるにはCD売上以外の要素が必要となっているが、「売れる = ヒットする」、「アーティスト人気による売上とヒット曲の混同」と言う日本の風潮がオリコンにより未だに引き継がれてしまっており、CD売上の注目度が未だに音楽配信系のチャートより高いのが現状である。しかしオリコンは合算ランキングを含めヒットを示せているだろうか? それが答えだと思う。

シングルCD売上 上半期ベスト20

 

 アルバムチャートについてだが、現在のアルバム総合チャートであるHot Albumsは、残念ながらビルボードチャートの理念から外れたチャートとなってしまっている。ビルボードチャートの基本理念として「所有と接触を合算する総合チャート」と言うモットーがあるが、現在のHot AlbumsはCD売上とダウンロード(バンドル)売上の「所有」に当たる部分だけが残り、「接触」に当たるルックアップが廃止されてしまった。

 また要素の少なさからCD売上の重要度が高く、市場規模の小さいダウンロード売上はそれ程の効果を示していなかった。アルバムCDもシングル同様、シングルのように複数枚数は難しいものの特典で購入を促す手法がとられるケースが多く、その影響が結果として大きく残ってしまうとなると、アルバムそのものの人気を示せるかと言えば疑問が残る。何等かの新たな手段を模索している段階であるかもしれないが、現状日本のアルバムチャートはオリコンを含め機能不全を起こしていると言えるだろう。

 

 

 最後にこの2つのチャートを紹介します。後述のボカロチャートは今年度からスタートした新しいチャートです。

TikTok Songs Chart 上半期ベスト20

ニコニコ VOCALOID SONGS 上半期ベスト20

 

 

 以上、Billboard Japanの2023年上半期チャートをお送りしてまいりましたが、下半期はどのようなヒット曲が、ご覧の方にとって印象に残る曲が飛び出してくるでしょうか。また当ブログをご覧いただければ幸いです。