【エアコミケ・特別寄稿】ヒット曲の基準とは? そしてストリーミングチャートは信用できるのか?

 日本では長らくオリコンがヒット曲の基準として用いられてきたものの、頑なにCD売上のみを基準にしていたために、音楽配信の普及やCD販売での特典商法により価値を失い、今やBillboard JAPANにヒットチャートとしての立場を奪われてしまっています(オリコンも“一応”ダウンロードとストリーミングを加えた合算ランキングを始めたものの、シングルもアルバムもCD単位での集計となっており、これをメインのランキングに移行する気概は無く、逆に放置状態とも言える“やってるだけ”のランキングに落ちぶれてしまっている)。

 このブログでは今年のはじめに(下記記事において)今後のヒットチャートについての見解を示しましたが、今回は本来コミケの新刊に掲載する予定でしたネタが使えなくなったため、売上要素となるCD売上、ダウンロード売上、ストリーミング回数の売上3要素を中心に、もう少し深く掘り下げて行きたいと思います。

amano-yuuki.hatenablog.jp

 

  • CD売上だけで得た1位に意味も価値も無い 

  これについては年始の記事の時点で指摘した通りで、現状CD売上は特典の有無に関わらず持続的なものでは無くなってしまい、これだけで楽曲の人気を図るのは困難と言える。今回もまた、今季ここまでの週間CD売上1位を記録した曲が翌週のBillboard JAPAN Hot 100でどの順位だったのかをまとめてありますので、こちらもご覧ください。

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※ 黒塗りはCD発売当週にCD売上と同じ順位を得られなかった曲。翌週は 100位圏外かつチャート要素20位以内が無かったため、無料ユーザーが順位検索出来ない記録(一番下のHKT48は結果待ち)

 今季は(特に今年デビューの)男性アイドルグループの活躍もあり翌週即トップ10落ちの曲が昨年に比べ少なくなったものの、それでもCD発売2週目になるとあっさり下落するケースが目立っている。言うまでもなく翌週100位にすら残れていない3曲はヒット曲を名乗る資格は無く、ただ単に「その週、一番売れたCD」でしかない。

 しかもここに来て、特典を付けなくても売れそうな歌手のCDに特典を付ける傾向も見られている。昨年下半期からで代表するところは、米津玄師のシングル「馬と鹿」と、King Gnuのアルバム「CEREMONY」の2作。いずれもライブチケットの先行申込が特典となっており、それ目当てでの売上も少なからずあっただろう。アルバムの場合はそれを引き下げてのツアーが組まれる場合もあるため、ライブの先行申込を特典にしやすいが、逆に言えばそうでもしないと満足な売上を記録出来ないとも受け止められかねない。アメリカでもライブの割引チケットをCDの特典にするケースも見受けられており、週間のアルバムチャートでCD売上が大きく影響する週もあり、日本でも今後起こりえそうな事例だろう。

 もちろん特典を付けても売れないものは売れないが、「特典ありき」のCD売上では、楽曲やアルバムパッケージの正当な評価とは言いづらい。この傾向を無視して、今もなお「CD売上はヒット曲の基準」と見ているようであれば時代遅れも甚だしい。オリコンが頑なにCD売上以外の要素を(不純物呼ばわりしてまでも)拒み続けた影響もあるだろうが、CD売上だけが突出している楽曲は疑ってかかるべきだろう。事実、昨年のBillboard JAPAN Hot 100年間チャートにおいて、CD売上100位以内の楽曲は1/3以下の31曲しか入らなかった。これは週間チャートがCD売上有利の面から反する結果であり、如何にCDが持続的に売れなくなったかを示しているとも言える(週間で一定以上のCD売上に対し、獲得ポイントの割引措置をかけた効果もある)。そこが昨年のCD売上1位「サステナブル」が年間47位、2位「ジワるDAYS」45位、3位「NO WAY MAN」53位と言う結果にも表れている。もしその曲が本当に人気があり、90年代以前のように持続的にCD(レコード盤)が売れるのであれば、このような結果にはならないだろう。

 しかし今の時代には音楽配信と言う20世紀には無いものがある。そして、オリコンが散々無視し、取るに足らない存在としてきたこの要素が、ヒット曲の基準として成立してきている。

 

  • ストリーミングの進出により斜陽産業化が見込まれるダウンロード市場だが、存在感は顕在か

  当初ダウンロード売上については、2006年8月から1ヶ月に1度(原則毎月20日)発表されている日本レコード協会の有料音楽配信認定が、ほぼ唯一と言っていい複数業者にまたがった売上を取りまとめた記録として取り扱われており、週間やデイリーでの結果については各ダウンロード業者単独で発表しているものに頼らざるを得なかった。2016年2月になりようやくBillboard JAPANが複数業者にまたがるダウンロード売上を週間チャートに取り入れ始め(それ以前はiTunesでの売上からの類推、週間チャートの発表は2017年10月から)、オリコンも2016年11月からデジタルアルバムランキングを、単曲のデジタルシングルランキングを2018年度からスタートさせている。

 週間チャートのチャートアクションは、CD売上同様発売週だけで後が続かない曲もあれば、軌道に乗ったヒット曲がチャート上位に長く残留する場合もある。CDとは違い特典を付ける事が難しく(出来ない訳では無い)、複数購入する必要性が無いため、動きとしては90年代以前のCD(レコード)売上のチャートに近く、ダウンロードのチャートはヒットチャートとしての基準を満たしていると言える。それもあってCD売上年間100位以内が31曲しか入ってなかった昨年のBillboard JAPAN Hot 100年間チャートにおいて、ダウンロードの年間100位以内の曲は半数以上の56曲が入っている。

 ただしCD売上はそれだけで年間チャートに入っている曲が見られる中、ダウンロード売上だけでは年間チャートに食い込めない傾向も見られている。上記56曲の中でもCD売上、もしくはストリーミング回数が伴っている曲が年間チャートに食い込んでおり、ダウンロード売上だけでは力不足となっている。CD売上とは違い、週間1位が10万に行く事が稀、5万ですら多くないだけに、ロングヒットを続ける曲があるにしろ年間で50位、100位の水準となるとCD売上の数字を下回っていると思われる。昨年リリースの楽曲の中で、有料音楽配信認定でミリオンを達成した曲は無く、トリプル・プラチナ(75万DL以上)も昨年のうちに認定されたのは「馬と鹿」のみ。ダブル・プラチナ(50万DL以上)まで加えても「HAPPY BIRTHDAY」「まちがいさがし」「Pretender」「紅蓮華」の5曲。プラチナ認定(25万DL以上)まで見ると「白日」「海の幽霊」「愛にできることはまだあるかい」「グランドエスケープ (Movie edit) feat.三浦透子」「宿命」で、ようやく10曲となる。(「Pretender」と「紅蓮華」は先月トリプル・プラチナ認定、今年1月に「白日」がダブル・プラチナ認定されている)。

 とは言えCD売上が特典により肥大化している事を踏まえると、もし全てのシングルCDが特典無し・1種リリースにした場合、75万枚も売れるだろうか、25万枚も売れるだろうか、とも考えられ、そう思うと案外現実的な数字にも見えてしまう。昨年11月に配信を解禁した嵐の配信限定曲でも現時点ではゴールド認定(10万DL以上)にすら至っていない。

 となると、むしろ基準にするべきはCD売上ではなく、ダウンロード売上なのではないだろうか。CD売上に固執し、ヒット曲の基準を変えなかった(変えられなかった?)日本の音楽業界が、今の欧米との決定的な差を生みだしてしまったように思えてくる。しかし現在、ストリーミングの需要が増し、ダウンロード市場に取って代わる存在となっているだけに、ヒットチャートとしては信頼できるものの、チャート水準については年々下降すると見られている。ちなみにアルバムのダウンロード認定(全曲一括DLとなるバンドルDL数に限定)に関しては昨年、ゴールド認定すらゼロだった。欧米ではすでにダウンロード売上がチャートに与える影響がかなり低くなってしまい、日本でもダウンロードからストリーミングへの流れを止める事は出来ないだろうが、それがどのように推移していくのか。見守る必要があるだろう。

 

  • 日本でも主流になりつつあるストリーミングサービス。しかし利用傾向からチャートへの反映に疑問点も…

  欧米ではすでに主流となっている音楽のストリーミング(サブスクリプション)サービス。日本でも急速にシェアを拡大しており、先月日本レコード協会から公開された「日本のレコード産業2020」によると、2019年の音楽ストリーミングの売上は2018年から約30%増え404億円に達し、映像配信や広告収入を加えると音楽配信売上の2/3を占めるまでに至っている。

www.riaj.or.jp

 Billboard JAPANでは2017年度から複数業者にまたがるストリーミング回数をチャートに取り入れ、(それ以前は「プチリリ」のデータベースへのアクセス回数によるもので、ここからの集計は2018年度をもって終了。週間チャートの発表はダウンロードと同じ2017年10月から)、オリコンでも2019年度から週間ランキングをスタートさせている。そして以前にも伝えたように、利用者の拡大に伴いチャート水準も上がっており、Billboard JAPANを例にすると。2019年度当初は10位が100万再生に満たない週があったものの、今年度に入り10位で300万再生を超える週も出てきており、わずか1年少しでトップ10の水準が3倍近くまで跳ね上がっている。

 しかし今年2月に大手ストリーミングサービスの一つであるLINE MUSICの高橋明彦COOのインタビューにより日本のストリーミングサービスの利用状況が明らかになると、ストリーミングに重きを置くチャート編成に疑問符を付けるべきでは無いかとも思えました。

 特に「日本市場の特殊性」と言う部分である(以下要点を抜粋)。

 日本人の音楽視聴の傾向として、「好きなアーティストの曲を繰り返し聴く」というものがあります。

 一番使われるのは「マイページ」。要は自分のお気に入りソングを保存したライブラリです。次に多いのが、過去の再生履歴。そして「ランキング」です。

 一方、レコメンドに代表する「ディスカバリー」系の機能は利用率が低い。海外とは明らかに傾向が違います。海外の場合、圧倒的に見られているのは「ディスカバリー」です。

  日本人は「曲じゃなく“人”につく」。自分が好きなアーティストの曲しか聴かない傾向にあり、ディスカバリーへの興味が低い。日本人はそんなに新しい楽曲の発見に重きを置いていないようです。ディスカバリー系機能については、コアなミュージックファンしか価値を感じられていないのが実情。

 アメリカなどではウケた「ラジオ型」のストリーミング・サービスが日本でウケないのも、同じ理由です。新しい曲をどんどん聴きたいわけではない。

 

  また、LINEを使ってのシェア機能についても想定ほどの効果が無かった事も明かしています。

 そうなると現状見られているOfficial髭男dismやKing Gnuによる寡占状態。またランキング上位である「紅蓮華」「まちがいさがし」等が上位に居座り続け、Billboard JAPAN Hot 100(CDTVオリジナルランキング)の固定化が目立つ現状も、ストリーミングのポイント比重が大きいとなり得る要因となります。

 となると、ストリーミングをどのようにチャートに取り入れるか。欧米とは違うスタンスが必要となり、現状では目新しさに乏しい、飽きられてしまいかねないチャートとなってしまっています。かと言ってこれだけのシェアがあるものを取り入れないのも世相を反映しているとは言えなくなります。

 そこでこれも以前取り上げました、アメリカのBillboard Hot 100で取り入れられているリカレント・ルールの導入を検討するべきとも思いました。

 

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 簡単に説明すると、一定週数チャートイン(発売からの週数ではない)した曲に対してチャートインに対する条件を付けて、それに満たなかった場合は問答無用で除外するルールです。ここではアメリカ同様順位条件ではなく、ポイントを減算するルールを提案しましたが、これをストリーミングに限り適用するのも有効かと思います。そしてこれはBillboard JAPAN、オリコンのみならず、各ストリーミングサービスのランキングにも適用するべきではないかとも思います(この場合は再生数は有効で、ランキングからは配信1年経過の時点で自動的に除外するYouTubeランキングと同じ手法でも良い)。

 それと共にストリーミング回数に対する価値をどれだけのものにするのかも重要なところになります。先週のチャートではOfficial髭男dism「I LOVE…」が15週目にして早くも累計1億再生を突破したと発表されました。

www.billboard-japan.com

  また別の記事では、今年リリースされた曲の中で「I LOVE…」に次ぐ累計再生数となっているのはKing Gnu「どろん」で約3800万再生と発表されている。

www.billboard-japan.com

  そこで問題になるのが、どれだけの再生数をDLと同等の価値とするのか。現状Billboard JAPAN Hot 100ではストリーミングは0.0725%(100万再生で725Pt.の換算)、ダウンロードは9.5%(1万DLで950Pt.の換算)となっており、1億再生は約76.3万DLと同等のポイントを得ている計算になります(100万DLと同等価値は約1億3100万再生となる)。現状累計1億再生に到達した曲は同週に達成した「115万キロのフィルム」を含め14曲。このうち「Pretender」「白日」「マリーゴールド」は2億再生に達している。億とは言わないにしろ、千万単位まで達している曲が年間で何曲あるか。ここはCD売上、DL売上同様、トップだけの数字を見ていては分からないところなだけに、この部分の調整が現状理想的なものかも重要になります。また、日本レコード協会からのストリーミング回数による認定も行われるようになると、一つの基準となって見やすくなると思います。

 

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  昨年のBillboard JAPAN Hot 100年間チャートにおいて、ストリーミングの年間100位以内の曲はダウンロードに次ぐ54曲。今年は更にこの数字が増えそうですが、それに偏りや目新しさが無いのも問題でしょう。各ストリーミング業者にはニーズに合ったサービスを、そしてチャートにも一工夫が欲しいところですし、それが出来るだけの傾向は得られているでしょうから対策は練られると思います。

 

 早ければBillboard JAPANが下半期に入る5月下旬辺りに対応してくる可能性がありますが、現在のヒットチャートがこのようになっていると言う現実と、ヒット曲の基準について、少しでもご覧いただいた方に理解していただけると幸いです。最後に現時点でのBillboard JAPANとオリコンの上記売上要素の集計対象業者を参考として記しておきます

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集計対象(2020年3月30日以降)